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一夜の愛、人との愛
第18章 刻印
「それで―――、マリア」

男が呼びかけながら振り返る。
その顔には、先程までの謝罪の色は無い。
代わりに浮かんでいたのは、真っ直ぐで曇りの無い真摯な表情だ。

「さっきの質問の、答えは決まったか?」

真理亜の瞳が、かすかに見開かれる。

「お前は、イザヤの実を手に入れるために、どこまで出来る」

男の問いには、威圧感も圧迫感も感じられない。
ただ静かに、真理亜の気持ちを確かめようとしている意志だけがあった。
その声音に呼応して、彼女の表情も真剣になる。

「どこまでって、どういう意味ですか?」
「……」
「やるべきことがあるなら、やるつもりです。そのために、この森に来たんだから」

あの白い館の奥の間で、イエナリアに対して口にした思いを、忘れたわけじゃない。
ザレムと共に、その実を探せと言うなら、探しに行くつもりだ。
その道が険しくても、”試練”だと言うならば受け入れるし、覚悟もしている。

自然と引き締まっていく真理亜の表情に、男は小さく頷いた。

「そうか。だったら、この森を、ある程度は安全に抜けられるだろう」
「安全に?」
「あぁ」

男は立ち上がると、真っ赤なコートを脱いで地面に落とす。
上半身は、コート以外に何も身に着けていなかったせいで、男の剥き出しの半身が空気に晒された。
無駄な肉が一切なく、鍛えぬかれた張りのある筋肉で覆われた身体に、真理亜が反射的に視線を逸らす。

だが、その視線は、すぐに男の顔に引き戻された。

「脱げ。お前に印をつける」

頭上から降ってきた言葉は、反射的に顔を上げた真理亜の唇から、一瞬、言葉を奪った。



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