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一夜の愛、人との愛
第3章 午後1時のリスニング
「あっ!」「わっ!」

真理亜の声と、聞き覚えのある男性の声が重なる。
ぶつかってしまったのは、同じフロアで働く広告担当の斉藤だった。
彼の持っていた資料が廊下に散らばり、彼自身も尻もちをついている。

「斉藤さん、ごめんなさい」

廊下に散らばってしまった資料を手早く拾うと、真理亜は斉藤の隣に腰を下ろす。

「大丈夫ですか?」

不安げに彼を覗きこむと、180cmを越える細身の彼は、人の良さそうな顔に柔らかな笑みを浮かべて頷いた。

「うん、大丈夫。それより、天海さんこそ、大丈夫?」

彼の細い瞳は、真理亜の目元を見つめていた。
赤い目元に驚いたのだろう、かすかに目を見張っているようにも見える。

「あぁ、大丈夫です。ちょっと仕事で反省することがあって」

資料を受け取った斉藤が立ち上がるのに合わせて、真理亜も腰を上げる。
164cmの真理亜は、女性の中では、そこそこ身長がある方だが、さすがに斉藤のような長身は、どうしても見上げる形になった。

広告担当の彼は、現在28歳の独身で、女子社員からの人気も高い。
服装規定の緩い、この会社で、彼は常に、ラフでカジュアルな格好をしているので、明るい茶色に染めた猫毛のパーマと相まって、ファッション誌の表紙に写り込んでいそうな雰囲気がある。
今日も上は白地に大きなプリントが入ったTシャツ、黒のジャケット、下はデニムと、動きやすさ重視の服装だった。

(雪子が騒ぐのも分かるなぁ・・・)



感心したように、その雰囲気に一瞬見惚れた。



そんな真理亜の唇に、気付けば、彼の唇が重なっていた。



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