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一夜の愛、人との愛
第5章 白亜の建物
やや俯いて腕を組むと、コーラルは大理石に良く似た美しい床へ視線を落とした。

「彼は、悪魔ではありません」

先程より、少し声のトーンを落として、彼は答える。

「彼は、天使でした。罪を犯し、汚れた世界に堕ちてしまった」

「・・・・・・」

その物憂げで悲しい声音に、自然と真理亜の表情も沈む。どう返事をすれば良いのか分からず、彼に倣うように視線を下げる。
彼女の気遣いを察したのか、コーラルが、顔を上げて穏やかに笑みを浮かべた。

「人間の世界では、堕天使、と呼ばれますね」

組んでいた腕を解き、太腿に置きながら、形の良い唇を開く。

「私達の世界では、ただ、”穢れ”と呼びます」

その言葉の冷たさに真理亜が続く言葉を失った。

会話の途切れた室内が、一瞬の静寂に包まれる。

時が止まったかのような感覚に、真理亜がひとつ瞬く。



「・・・、待っていてください」

ふと背後へ視線を向けてから、静けさの中に穏やかな言葉を放ち、徐ろに天使が立ち上がった。彼は真理亜に背を向けて扉の方へ歩いて行く。
彼が扉に辿り着く数歩前に、廊下側から扉を押し開き、コーラルより少し背の高い天使が顔を出した。


「あいつは戻ったのか」


聞こえた声音に真理亜が顔を上げるのと、部屋への侵入者が真理亜に気づくのは、ほぼ同時だった。瞬時に来訪者の表情が険しくなる。


「コーラル、お前・・・!」


叱責するような声だ。

対するコーラルの声は低く囁くようで、真理亜には聞こえない。




だが、真理亜には話の内容よりも、新たに姿を見せた天使の方が重要だった。




そっくりなのだ、コーラルと。

目鼻立ちも、翼の美しさも、気品のある容貌も。

何が違うかといえば、彼は眼鏡をかけておらず、髪の色が銀色。

着ている服が、白い軍服のようで、コーラルより厳格さを感じるくらい。

髪の色が同じだったら、衣服でしか判別できないほどに、2人は似ていた。





突然、室内に現れた2人目の美しい天使に、真理亜はぼんやりとしていた。

だから、彼が近づいてきて、自分の顔を覗き込んでいると気付いた時には、心底驚いて、両肩が持ち上がってしまっていた。






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