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一夜の愛、人との愛
第6章 黒い地下牢
視線がぶつかった瞬間、反射的に真理亜が体を起こしシーツを引っ張った。

体を隠し、足がもつれながら寝台からベッドに降りると一気に扉の外へと逃げ出す。

白い階段が淡く光っている。

ステップを駆け下りると、そのまま細い階段へ足をかけて彼女は走った。

心臓の音が早鐘のように耳元で聞こえる。

暗い階段の途中で、不意に転びかけて、ようやく彼女は足を止め、片手を石壁についた。

(……あ)

奇妙な夢の感覚と、目覚めた瞬間に見えた天使の右手の濡れた様が、嗚咽を呼ぶ。

「ッ……」

ずるずるとシーツを引き攣らせながら階段に腰を下ろすと、彼女は涙の滲んだ瞳を強く閉じた。





  *  *  *





階下で番人の天使と会話をしていたクレイルが、ふと地上へ続く階段へ振り返る。

鋭い視線で階段の奥を見つめると、地上へ戻ろうとした天使を呼び止め、何か小さく囁く。

思わず口を開く天使に何か言い返すと、彼は、3人の天使と共に、地下牢の入口横の小部屋へ姿を隠した。

暗い洞穴に、松明の炎が爆ぜる音だけが響く。





  *  *  *





衝撃に湧き上がった涙を何度か拭うと、余り間を置かず、真理亜は立ち上がった。

黒い石壁の一部が柔らかく青白く光っている。

そっと光に触れて、心もとない自分の状態に改めて気付く。

絡みつくシーツを紐解き、丸まったシャツに気付いて、彼女は青いシャツに腕を通した。

一番下のボタンが取れていたが、何も考えないように事務的に服を整え、シーツを体の前で抱えた。

あの部屋には戻れない。

とにかく体を隠したかった。

どこか、安全な場所に行きたくて、知りうる唯一の場所へ、ゆっくりと足が動いた。



(地下牢…)



階段を降りきった真理亜の視線の先には、松明に照らされた薄暗く細長い通路があった。

牢のはずが、鉄格子のような扉は見えない。

ただ、通路の左側に奥へ向かって真っ暗な空間が広がっているだけだ。

松明の灯りでは、一番奥まで見えない。

目を凝らしながら、そっと、真理亜が洞穴の奥へと歩いて行く。







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