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一夜の愛、人との愛
第7章 魂の色
「えっ」

背後から何かに押されて、真理亜の上体が倒れる。

思わず男の右膝に座り込み、咄嗟にそむけた顔が男の肩口にぶつかった。

左頬に触れたザレムの体が温かい。

(・・・!)

はっとして体を起こそうとする真理亜の耳元に、ザレムが唇を寄せた。



「残念」

「ッ」



低い声と共に耳朶に触れた天使の唇に真理亜が反射的に目を閉じる。



「人間に、傷痕は見えねーよ」



楽しそうに囁いて、ザレムが真理亜の耳を軽く噛んだ。



「ンっ」



それだけで、まるで電流が流れたように体が痺れる。

バッと体を離した真理亜がバランスを崩す。

背後に倒れかけそうになる彼女を、ザレムの黒い羽が支えた。

その柔らかな感触に、自分を包んだ闇の正体に気付き、思わずザレムを睨む。



「騙したの?」

「んだよ、人聞きわりーな。ちょっと悪戯させてもらっただけじゃねーか」



鎖に繋がったままの手を、手首から上に向けてみせ、ザレムが伸ばした羽を静かに背中へ戻す。

苛立ちを隠さずに、その動きを見つめていた真理亜だったが、ふと背中に感じた濡れた感触に背中に手を回した。

指先がベトつく。

(これって・・・)

真理亜が目を凝らし、羽の端を見つめる。

暗闇の中で、濡れて光ってみえるものは、確かに血のようだった。




傷のついた羽で自分を支えたのかと考えるも、

彼の発した「悪戯」という単語を思い出し、

再びザレムの顔を睨みながら立ち上がろうとした。




だが、意外なことに、彼は目を閉じて俯いていた。




「遊びは終わりだ。戻って、浄化してもらえ」

「え?」

「俺がお前を抱いていようが、抱いていまいが、お前は全て忘れて戻ればいい」




ザレムから離れかけた体が、膝立ちのまま止まった。




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