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一夜の愛、人との愛
第8章 銀の鎖

その時、クレイルが地上へ続く階段へ顔を向けた。
自分と同じ顔立ちの金髪の天使に気づくと、片手を上げて「留まれ」と指示を出す。
「マリアさん。行きましょう」
クレイルの声に、真理亜が髪を揺らして振り返る。
一瞬、周りに広がった彼女の香りに、ザレムが何か言いかけた。
だが、天使の様子に気づかないまま、彼女は立ち上がる。
松明を持つ天使の方へ歩き出すも、真理亜が足を止めた。
振り返った彼女と、拘束された天使の視線がぶつかる。
先に視線を逸らしたのは男だった。
俯いた黒い翼の持ち主を複雑な瞳の色で見つめてから、彼女は踵を返した。
クレイルの傍へ歩みより、通路まで戻る。
待機していた天使に松明を預け、銀髪の天使は、壁に指先で何か描き出した。
「牢の壁を厚くします。これで、こちらの音は”穢れ”には聞こえなくなる」
真理亜に顔を向けずに作業をしながら、クレイルは告げた。
哀しげに視線を下げた真理亜は、ふと、視界に揺れた金色の何かに、顔を階段へ向けた。
「っ」
彼女が息を飲む音に、クレイルが片眉を上げながらも作業を終えた指を下ろす。
階段の見張りと牢の見張りに指示を出し終えると、銀髪の天使は、階段の最後の数段を降りきれずにいる弟に気付き、改めて真理亜へ視線を向けた。
(・・・)
俯いたまま居心地悪そうにしている真理亜と、眼鏡の奥の瞳を細め、拳を強く握っている弟に、何かを察した兄が苦笑する。
「ここでお待ちください」
そっと囁いて、クレイルがコーラルの傍へ歩み寄った。
「マリアさん」
真理亜は、気まずさに顔を上げられずに待っていたが、声を潜めた会話の途中、自分の名前を呼ばれて、おずおずと声の主を見た。
コーラルが、階段の途中で立ち止まったまま真理亜を見つめている。
「申し訳ありませんでした」
上手く言葉を返せない真理亜に一つ頭を下げると、
コーラルは晴れない表情のまま、先に階段を上がって姿を消した。
その様子を見送って、クレイルが再び真理亜の横へ歩み寄る。
「歩けますか?」
尋ねる声音は、驚くほど穏やかで優しい。
「はい」
俯いたまま、小さな声で返事をした真理亜に微笑むと、クレイルが松明を見張りに渡した。
「行きましょう」
自分と同じ顔立ちの金髪の天使に気づくと、片手を上げて「留まれ」と指示を出す。
「マリアさん。行きましょう」
クレイルの声に、真理亜が髪を揺らして振り返る。
一瞬、周りに広がった彼女の香りに、ザレムが何か言いかけた。
だが、天使の様子に気づかないまま、彼女は立ち上がる。
松明を持つ天使の方へ歩き出すも、真理亜が足を止めた。
振り返った彼女と、拘束された天使の視線がぶつかる。
先に視線を逸らしたのは男だった。
俯いた黒い翼の持ち主を複雑な瞳の色で見つめてから、彼女は踵を返した。
クレイルの傍へ歩みより、通路まで戻る。
待機していた天使に松明を預け、銀髪の天使は、壁に指先で何か描き出した。
「牢の壁を厚くします。これで、こちらの音は”穢れ”には聞こえなくなる」
真理亜に顔を向けずに作業をしながら、クレイルは告げた。
哀しげに視線を下げた真理亜は、ふと、視界に揺れた金色の何かに、顔を階段へ向けた。
「っ」
彼女が息を飲む音に、クレイルが片眉を上げながらも作業を終えた指を下ろす。
階段の見張りと牢の見張りに指示を出し終えると、銀髪の天使は、階段の最後の数段を降りきれずにいる弟に気付き、改めて真理亜へ視線を向けた。
(・・・)
俯いたまま居心地悪そうにしている真理亜と、眼鏡の奥の瞳を細め、拳を強く握っている弟に、何かを察した兄が苦笑する。
「ここでお待ちください」
そっと囁いて、クレイルがコーラルの傍へ歩み寄った。
「マリアさん」
真理亜は、気まずさに顔を上げられずに待っていたが、声を潜めた会話の途中、自分の名前を呼ばれて、おずおずと声の主を見た。
コーラルが、階段の途中で立ち止まったまま真理亜を見つめている。
「申し訳ありませんでした」
上手く言葉を返せない真理亜に一つ頭を下げると、
コーラルは晴れない表情のまま、先に階段を上がって姿を消した。
その様子を見送って、クレイルが再び真理亜の横へ歩み寄る。
「歩けますか?」
尋ねる声音は、驚くほど穏やかで優しい。
「はい」
俯いたまま、小さな声で返事をした真理亜に微笑むと、クレイルが松明を見張りに渡した。
「行きましょう」

