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一夜の愛、人との愛
第8章 銀の鎖
(あつ、い・・・)

体が温かいと思っていた真理亜の感覚は、横になってから数分で、徐々に熱っぽさへ変化していた。

呼吸をするごとに、体の奥から蝋燭の炎で煽られていくような熱を感じる。

最初は、ただ「温かい」と感じていただけなのに、今では毛布をかけていることが苦痛になるほど、皮膚のそこここが熱くなっている。

掌を、畳んだシーツの下に入れると、一瞬ヒヤリと触れた感触が気持ち良かった。

だが、すぐ掌が汗ばんでくる。

(どう、しよう。風邪・・・?)

火照った体が、しっとりと汗で濡れていく。

前髪が額に張り付き、唇を薄く開くと、熱のこもった吐息が零れた。

毛布を剥がしたいが、部屋の主には気づかれたくない。




体を右に倒して膝を丸める。




左手で、シーツの上のスカーフを取ると、力なく握った。




(早く、収まって・・・)




目を閉じて自分の体に言い聞かせた時、ふっと、下半身が涼しくなった。




「え」




反射的に目を見開いた彼女を、銀髪の男が冷静な表情で見下ろしていた。




「あ、あの・・・」




「真理亜さん。貴方に、まだ言っていないことがありました」




毛布を手にした男は、顔を赤くして辛そうな息を吐く真理亜に淡々と告げる。




「天使が人間の女と交わるのは、もう知っていますね?」




まるで授業を行う教師のように言いながら、彼は毛布を綺麗に畳むと隣の青いソファの背もたれへかけた。




「天使は、人間の女を、この建物に呼ぶと、一夜を共に過ごします。その際、人間の女を、その気にさせなくてはならない」




再び寝台の傍へ歩み寄った天使は、真理亜とは対照的に涼し気な笑みを向ける。




真理亜の汗ばんだ背中にシャツが張り付き、下着の線が薄っすら浮かび上がった。




天使が、その輪郭を視線で辿りながら、事務的に口を開く。




「この建物は、空の色が黒い時、人間の女を強く発情させるのです」




その言葉に、真理亜の体内で、何かがゾクリと疼いた。




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