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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度



いつからかは記憶が定かでは無いものの、自分が眠ってからのクレイルの行いを考えると、言いようのない羞恥心が襲ってきた。
下肢に直に触れる布の感覚が、急に淫らな刺激にも感じられる。

(やだ・・・)

そっと両足を引き寄せ体育座りになると、真理亜は不安げに瞳を瞬かせた。

主のいない部屋は、無機質で、無駄なものが無く、まるでショールームに見える。
廊下へ続く白い両開きの扉の傍に、昨夜、天使が何かを呼んでいた書き物机。その対面には、片開きの扉があり、手前には大きなL字型のソファとガラスのテーブルが置いてる。無機質に感じる理由は、恐らくクローゼットや収納など、ものを置くスペースが見えないせいだろう。全ての家具が、整然と置かれており、部屋の住人の性格を表しているようだ。

テラスに続くカーテンが、時折風に揺れて、それだけが時間の経過を伝える。


(今頃、会社、どうなってるんだろ)


一晩眠ったせいか、昨日のパニックも落ち着き、やっと自分の状況を冷静に考え始める。
緩い会社ではあったけれど、無断欠勤はしないのが真理亜の社会人としての信念だった。


(雪子、心配してるだろうな)


入社のタイミングは違ったけれど、年が近いせいで、同僚の雪子とは良く色々な話をした。
「仕事で困った時や、何か合った時は、いつでも相談して」と、以前から気にしてくれる優しい親友でもあった。


(報告・・・、は、しなくて正解だったけど)


あの、不意の口づけ。

突然すぎて、ときめきも嫌悪も何も感じられず、とにかく驚くことしか出来なかったトイレの前でのキス。



けれど、昨日のクレイルの話で、漸く合点がいった。



一つ深呼吸してから、まだ戻る気配の無い天使に、真理亜は、ゆっくりと寝台から床に降りた。


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