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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度
* * *
天使が戻ってきた気配に、静かに振り返る。
テラスの白いベンチに腰を降ろし、真理亜は薄紫色の空を眺めていた。
「服は、きつくないですか?」
「・・・・・・、大丈夫、です」
立ち上がる前にテラスまで近づいてきた天使の視線に、何故か頬が火照る。
きっちりと昨日と同じ着こなしで歩いてくる男の表情からは、昨夜の熱い一時の余韻は微塵も感じられない。
事務的かつ冷静な空気を纏って、男は真理亜の隣で立ち止まった。
腰をあげようとする彼女を「そのままで」と制する。
「貴方の洋服は、すぐ届けさせます」
「届けさせる?」
「人間は、特に、貴方が住んでいた「にほん」という国の女性は、清潔な身なりを好む、と書籍で読みました。濡れた服を、そのまま身につけるのは嫌ではありませんでしたか?」
意外な問いかけに、真理亜が一瞬固まって、そっと肩を縮こまらせた。
あながち間違っていない知識ではあるが、それは、自分の衣服を天使が洗っているということだろうか。
それはそれで、どうも落ち着かない。
真理亜が何か言いかけて、口を閉じると、その小さな仕草に気付いた天使は翼をグッと引き絞って背中に戻し、同じベンチへ腰を降ろした。
「間違えてしまいましたか」
「え」
隣から聞こえた、思いの外、気遣うような声に、釣られて男の顔を見る。
青みがかった灰色の瞳が、真理亜の顔を静かに見つめている。
「昨日、地下で奴に言われました。私に人間を理解することは出来ない、と」
「・・・・・・」