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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度


命が通っているはずなのに、まるで陶器のような存在だ。
真理亜が目を離せずに瞬く。
きっと男は、素直に、そう考えているのだろう。決して悪気があるわけでもなく、何か思惑があるわけでもなく。そう思ったら、唇が動いた。


「恥ずかしいんです。他の人に・・・、身につけているものを洗われるのは」


綺麗な面差しは、表情を変えない。


「何故、と言われても、上手く説明できないんですけど。とにかく、照れくさくて。もちろん、感謝もしてるんですけど。その・・・」

「なるほど。羞恥心、ですか」


言葉を探しあぐねた真理亜に、難しい表情で天使はテラスの外へ視線を移した。
建物の外には草原が広がり、遠くに小高い丘が連なっている。その奥にある広大な森の濃い緑が頭を覗かせ、エデンの広さを物語る。


「例えば、それは昨夜も、ということですよね」

「・・・え」

「貴方は最初から声を殺そうとしていた。私が目隠しをしても、それは変わらなかったように思います。私が違う種族であり、違う概念をもっているとしても、"羞恥"というのものは変わらないのでしょうか?」


男の顔が真理亜へ向き直り、どこか恐れるような表情で問いかける。
自分よりも身長のある彼は、座っていても真理亜より顔の位置が高い。
その眼差しに浮かぶ揺らいだ空気を見つめて、彼女はひとつ頷いた。


「変わらない、です」

「・・・」

「他の女性が、どうなのかは分からないけど・・・、私は、恥ずかしい」


言葉の最後で、真理亜の視線は彼の胸元あたりに下がった。
こんな話を、改めて男性に話すことになるとは夢にも思わなかった。
気恥ずかしい沈黙に、目元に朱を刷いた彼女を包むように、静かな風が吹いた。


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