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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度
* * *
整った顔を微かに歪めたまま謝罪するクレイルに、真理亜は微笑んで首を振った。
彼のせいでは無いのだ。
褥で彼が囁いたように、彼は違う種族として真理亜に対峙していたはずだ。
熱を解放することが、眠りへの近道であると分かっていて。
どんな手段かは分からないが、清潔感を取り戻した衣服を受け取り、寝台の陰へ移動しながら、彼女は深く考えないことに決めた。
「人の世界」に戻る時には、ここで起きたことや、ザレムやコーラルと出会ったこと、天使の世界の掟、・・・何もかも忘れることになると言う。
ならば、悩む必要も無い。全ては夢や幻のように、はかなく消えるのだから。
スカートの皺を整えるように払い身に付けると、ストッキングは丸めて手に持つことにする。
こちらを気遣った天使は、自分の着替えが終わるまではテラスで待ってくれている。
急いでシャツのボタンを止めて肩口をラインに合わせ、青いスカーフを首に巻いた、真理亜の手が、しかし、そこで止まった。
(・・・・・・)
自分が戻ったら、ザレムは、どうなるのだろう。
あの黒い天使は、消滅するのだろうか。
―――孕ませた天使は"穢れ"に落ちて、消滅すると決まっている。
それまでの機敏さが嘘のように、のろのろとスカーフを結んだ真理亜の指が、スカーフの端を優しく摘んだ。もう、そこに血の汚れは残っていない。
―――戻って、浄化してもらえ
暗がりの中、自分に告げた声を思い出し、真理亜は目を閉じる。
根拠は無い。根拠は無いけれど、男が自分を孕ませるような行為をしていないという不可思議な確信が、真理亜にはあった。
「なんで、かな・・・」
ベランダでチューハイを飲んでいた時の記憶は薄れているし、"俺の女"と言われた時には、微かな恐怖や嫌悪も感じていた気がするのに、あの天使の行く末が気になる。
唇を噛み締めて裸足のつま先を見つめてから、真理亜は纏まらない思いに切ない表情を浮かべたまま顔を上げた。