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秘密
第5章 仮面の下
秋の匂いを風が運び、真綿を優しく引き裂いたような薄い雲が夕暮れを待っている。
──「家族はいないよ、どこにもね」
沙織は西村のそっけない言葉を思い出していた。
背徳を悔いる様子もなく、まるで家族の存在に興味を失っているような冷えた口調と、振り向いた時に見た眼差しがどうしても一致しない。
15年という月日だろうか
最後に見せたあの表情は、手放してしまったものへの切ない追憶なのだろうか
咲き誇っていた彼岸花は今や見る影もなく、沙織は赤く彩られていた場所を一瞥しながら自宅の門を開いた。
「ただいま」
「あら、沙織さんおかえりなさい。お邪魔してます」
出迎えたのは義母の妹、百合子だった。
「まぁ、こんばんは。
今日はお一人ですか?」
「そうなの、午前中姉に予約の電話を何度入れても出ないもんだから午後にかけ直したのよ、…そうしたら具合が悪かったからって言うじゃない…」
「えっ?」
沙織は急いで家の中に入った。今朝の道子の事が頭を過る。
「お義母さん…」
「あら、おかえりなさい沙織さん、お疲れさま」
いつもの義母だった。
「大丈夫なんですか?」
咲子の顔色が気になってまじまじと見つめる。
──「家族はいないよ、どこにもね」
沙織は西村のそっけない言葉を思い出していた。
背徳を悔いる様子もなく、まるで家族の存在に興味を失っているような冷えた口調と、振り向いた時に見た眼差しがどうしても一致しない。
15年という月日だろうか
最後に見せたあの表情は、手放してしまったものへの切ない追憶なのだろうか
咲き誇っていた彼岸花は今や見る影もなく、沙織は赤く彩られていた場所を一瞥しながら自宅の門を開いた。
「ただいま」
「あら、沙織さんおかえりなさい。お邪魔してます」
出迎えたのは義母の妹、百合子だった。
「まぁ、こんばんは。
今日はお一人ですか?」
「そうなの、午前中姉に予約の電話を何度入れても出ないもんだから午後にかけ直したのよ、…そうしたら具合が悪かったからって言うじゃない…」
「えっ?」
沙織は急いで家の中に入った。今朝の道子の事が頭を過る。
「お義母さん…」
「あら、おかえりなさい沙織さん、お疲れさま」
いつもの義母だった。
「大丈夫なんですか?」
咲子の顔色が気になってまじまじと見つめる。