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秘密
第6章 酔い
駅の階段を足早に上りながら、倉本の背中を追った日の事を思い出していた。

こんな風になってしまう事が怖くて、断ると決めていたあの日。

倉本の熱に侵されて脆(もろ)く崩れ去った決意は、今では危うい方向へと足を延ばしている。


「…っ…」


改札の前で携帯が震えだした。


「お義母さん…」


慌てて立ち止まり、何かあったのではないかと気が急いた。


「はい…もしもし、お義母さん…?」

『沙織さん?…よかったわ電話に出られて…、お仕事終わったのね』

「あの、どうしたんですか?…具合は?」


速い呼吸をゆっくりと整える。


『あぁ、それは大丈夫。心配させたのね、ごめんなさい』

「いえ、ほっとしました」

『じつはね、百合子がまた来てるのよ』

「えっ?」

『どれだけ暇なのかしら、いくら夫と娘の帰りが遅いからって…』

「きっとお姉さんが心配なんですね」

『いいえ、ただのお節介。…今うちで慎一郎を相手に喋りまくってるらしいわ、ふふっ…。
あ、それでね…』

「はい…」

『まだ私、お客様から手が離せなくて。
悪いんだけど沙織さん、帰りに駅前のケーキ屋さんに寄ってきてほしいの、昨日のお寿司のお返しに』




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