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秘密
第6章 酔い
背中から熱が引いていく。


「わかりました。
あの、夕飯は…」

『私の顔を見たらすぐに帰るらしいから後で適当に済ませましょう、ケーキで誤魔化すわ』

「ふふっ、そうですね、これから帰ります」

『悪いわね、お願いします』


沙織は力なく携帯を閉じた。


最寄り駅近くのケーキ店は日曜日の閉店時間が早い。

沙織は時間を確認し、泣きたい気持ちで改札を通りホームへと足を運んだ。

冷たさを増す風と夕暮れの空が、やるせない気持ちに拍車をかける。



返信しないままの私の気持ちを、あの人はどう受け取ったのだろう

来ると思っているのだろうか

来ないと知りながら待っているのだろうか

いったいどうして私なんかを

どうして先のない恋なんて……



1人でグラスを傾けている倉本の横顔を想い、沙織は強くなる胸の痛みに耐えていた。


いっそこのままの方が…


沙織は携帯を何度も開き、指を動かそうとしてはすぐに閉じた。

足は無意識に我が家へと近付くのに、心は倉本から離れない。


外灯の明かりに気付いてふと顔を上げれば、街路樹の銀杏の葉が一枚、蝶のように舞い降りてきて肩をかすめた。





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