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秘密
第6章 酔い
いつも落ち着いた店内が、時が止まったように更に静まり返った。

タバコの煙りとジャズの音色だけがその空間に流れ、会話を楽しんでいた筈の客や、グラスを傾ける事を止めた7、8人の男女の視線が一斉に沙織に突き刺さる。


「………」


慣れない雰囲気に圧されて後退りする沙織は、皆の視線がゆっくりとカウンターの奥へ移動するのを目で追った。


「沙織…」


そこに倉本がいた。


「やったな…」
「君の勝ちだ」
「おめでとう」
「イイ女じゃねぇか」


ドラムが刻む繊細なリズムに、サックスの旋律が軽やかに重なる。


無言で立ち尽くす二人の間で、新しいグラスに次々とワインが注がれていった。


「マスターにも」

「頂いてますよ」


カウンターの中の男がワイングラスを掲げた。

それを確かめた品の良い初老の男が立ち上がった。

「では…
このワインを彼との掛けに負けた私から皆さんに…」


皆が手元のグラスを倉本の方に向ける。


「それでは…、一途な彼に乾杯…」


「乾杯」
「乾杯」


サックスが聴き覚えのある軽快なメロディを奏でる。弦を指で弾(はじ)くウッドベースの心地良い低音にグラスを合わせる音が重なり、一瞬のドラマを思わせた。




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