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秘密
第6章 酔い
「………」


思いがけない光景に沙織の思考は完全に停止し、食い入るように見つめてくる倉本の眼差しだけが戸惑う沙織の気持ちを受け止めていた。


「おい、固まってるぞ」


近くの客に肩を叩かれ倉本が近付いてくる。

思い出したように財布から札を取り出しカウンターに置くと、倉本は立ち尽くす沙織の目の前で立ち止まった。


「……来ると思ってたんだ」


嬉しさを隠すように俯く倉本の瞳が濡れているように見える。


「早く行きなよ。
もうここに用はないんだろ?」


別の客に声をかけられると、倉本は振り向きもせずに沙織の背中に手を回した。


「行こう」


グラスが再び重ねられる音を背中で聴いて、二人はようやく外に出た。

止まった時間が動き出し、曲はボサノバに変わっていた。




懐かしささえ感じる倉本の温かな手に引かれ隣の公園に向かう。


「…どうして…」

「………」

「どうしてこんな時間まで」


独り言のように沙織が問い掛けた。


「……、君はなんでここに来た」


倉本が立ち止まった。


「えっ?」

「いったいどんな嘘をついてここに…」

「…っ…」


倉本の瞳が静かに熱を帯びた。




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