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秘密
第7章 剥がれた仮面
ドアを半開きにした夫がすぐ横の棚に腕を伸ばしている。
「純子さんとゆっくり話せた?」
「え?…えぇ…」
その手がきちんと重ねられたバスタオルを1枚手に取った時、右わきの少し下に見えた小さな赤い印を沙織は見逃さなかった。
「…っ…」
腕はすぐに引っ込み、躰を拭く姿がガラス越しに見える。
「………」
旅先のホテルでの電話、沙織の捨て身の誘いへの拒否、いつも不発に終わる儀式、胸に見つけたキスマーク、遅い帰宅、出張…
いくつもの不信を頭の中でぐるぐると回転させながら、沙織は黙って洗面所のドアを閉じた。
昨日は店で体調を崩して休憩に戻った母親にも気付かず、午後から呼び出されて仕事に出たという夫は、いったいどこへ行っていたのだろうか
真新しいキスマークを付けられた夫の躰には、いくつの証拠が残っているのだろう
急いで帰宅する必要なんてなかった…
バカみたい
「沙織さん」
はっとして振り返る。
「躰が冷えたままでしょう?お茶を入れるわ」
お義母さん…
湯飲み3つと急須をお盆に乗せてリビングに運ぶ咲子の背中に、その肩口に、額を預けてじっと黙り込みたい…
「純子さんとゆっくり話せた?」
「え?…えぇ…」
その手がきちんと重ねられたバスタオルを1枚手に取った時、右わきの少し下に見えた小さな赤い印を沙織は見逃さなかった。
「…っ…」
腕はすぐに引っ込み、躰を拭く姿がガラス越しに見える。
「………」
旅先のホテルでの電話、沙織の捨て身の誘いへの拒否、いつも不発に終わる儀式、胸に見つけたキスマーク、遅い帰宅、出張…
いくつもの不信を頭の中でぐるぐると回転させながら、沙織は黙って洗面所のドアを閉じた。
昨日は店で体調を崩して休憩に戻った母親にも気付かず、午後から呼び出されて仕事に出たという夫は、いったいどこへ行っていたのだろうか
真新しいキスマークを付けられた夫の躰には、いくつの証拠が残っているのだろう
急いで帰宅する必要なんてなかった…
バカみたい
「沙織さん」
はっとして振り返る。
「躰が冷えたままでしょう?お茶を入れるわ」
お義母さん…
湯飲み3つと急須をお盆に乗せてリビングに運ぶ咲子の背中に、その肩口に、額を預けてじっと黙り込みたい…