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秘密
第7章 剥がれた仮面
「ありがとうございます。……でも、先にお風呂に入りますから」


慎一郎がリビングに入ってきた。


「あら慎一郎、もう上がったの?」

「母さん、お茶より冷たい水が欲しいよ」


沙織は2人を残し、着替えを取りに階段を上がった。







ムカムカとくぐもった感情が沙織を支配しはじめた。

バスタブに浸かる沙織には、倉本との会瀬を思い返す余裕はなく、まぬけな夫への怒りだけが湧いてくる。


上手く隠す事が出来ないなら浮気する資格などない。せめて妻の為にもっと神経を注ぐべきだ

いつも妻の目を気にして、悟られないように、身をすり減らして隠す努力をするべきなのだ

平然と…


何度もキスマークを赦している馬鹿な夫に、沙織は自分を棚に上げて怒っていた。



───「暫くはあの人に抱かれない方がいい…。ここに俺の印を付けたから」


「…っ…」


倉本の言葉は女の言葉に変わり、優越感に笑っていた純子の余裕の微笑みは、女から自分に向けられたもののように蘇ってくる。


許せない

相手はだれ…


同僚だろうか、それとも出張先にいるのだろうか…


黒く濁った沙織の心は、犯人をあぶり出そうと躍起になっていった。



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