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秘密
第7章 剥がれた仮面
一人で生きている訳ではないのだと実感する。

咲子がいなければ、こうして笑ってはいないだろう。

笑顔をもたらし、前に踏み出す力をくれるのは、同情や共感よりもむしろ事情を知らないいつもの平凡な1コマなのかも知れない。


沙織は機嫌よく出掛ける咲子に感謝し、身支度を整えてから家を出た。


10月も半ばを過ぎ、青空が濃く見える。

冷たく澄んだ秋の匂いは鼻腔を通って胸に拡がり、黒く濁った沙織の体内を浄化しようとしているかのようだ。

妻としてのプライドを捨ててしまえば、それが無理なら別れてしまえば、胸を掻きむしりたくなるような憎悪から解放される。

根底から湧き出てくる醜いものに蓋ができる。

かろうじて均衡を保っていられるのは、自分自身の背徳…。

沙織は黄色く色づいた銀杏並木を眺め、秋風に揺れそよぐ葉音を聴いた。


「…健さん」


物悲しい木々の言葉が、倉本の熱い囁きを呼び起こす。


───俺だけの女になってくれる人



様々に揺れ動き木の葉の様に舞い上がる沙織の気持ちは、今は倉本へと着地する。


「………」


夫が女とケリをつけたら、私はどうなるのだろう……


沙織は後戻りするには複雑すぎる迷路で立ち止まり、自分が歩むべき道を探していた。




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