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秘密
第2章 誘い
咲子はエプロンをたたみながら足早にリビングを抜け、廊下の向こう側にある自室に入っていった。

自宅から10分程歩いた場所で美容室を営んでいる咲子は、人当たりがよく、また腕もいいようで常連客は多かった。

一人で切り盛りしている為そのほとんどが予約客で、早い時間でも対応している咲子の気配りが小さな店を長年支えていた。

夫と別れてから15年、家族の生活を支えていたのは咲子の腕とたゆまぬ努力だったに違いない。


「それじゃ、行ってきます。沙織さんも今日は早出?」

「あ、はい、でも、帰りはいつもより遅くなるかも知れません。バイト生が休んでいるので…」


咲子への嘘が後ろめたい。


「あなたも無理しないでね」

「はい」


柔らかな笑顔の咲子を明るく送り出し、沙織はその凛とした後ろ姿を見つめる。

いつもきちんとした身なりの咲子。華やかな印象の面立ちは、白い素肌に薄化粧だけで充分美しい。

同じ女性としてあんな風に年を重ねられたらと、沙織はいつも思っていた。

栗色に染め上げられた艶のある髪を羨ましがっていた沙織は、今は咲子にすすめられて同じシャンプーを使っている。

嫁と姑という枠にとらわれず気軽に接してくれる咲子を、沙織は心から慕っていた。



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