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第8章 秘密

「わかった…」

「………」


倉本の匂いは沙織を安心させ、何も言われなくても愛されていると感じる事ができる。

激しい欲望を貪らなくとも、渇いた心はその温もりに艶めき満たされていく。


「沙織」

「………」

「まだ、だめ？」


飼い主に"まて"と言われている子犬のように、倉本は沙織の耳元に小さくお伺いを立てる。


「だめ」

「ずいぶん意地悪だな…」

「意地悪はあなただわ」

「えっ？」


驚いた倉本が少し離れて沙織を見た。


「メールで意地悪したでしょう？…せっかく誘ったのに、"どうして？"って…」

「…っ…いや、アレは…」

「だからダメ」


顔を上げ、口をへの字にしてｷﾘｯと睨む沙織を見て倉本が笑いだした。


「ぷ、あははは…」


笑いながら沙織の頭をよしよしと撫でる。


「な、何がおかしいのよ」

「君のそんな顔初めて見た、あはは…かわいいな、ｸｸｯ…」


倉本の口からすんなりと可愛いと言われてしまった沙織は、恥ずかしくて下を向いた。


「そ、そんなに笑わな…」


沙織は再び抱きしめられ、唇が耳元に押し付けられた。


「君の甘い声を聞く時間ある？」