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第9章 露見

沙織は冷静に自分を見つめなおした。


「沙織」

「いつ逢えるかなんてわからない」

「沙織…」

「こんな事…あなたにとって、時間の無駄だわ」


倉本が沙織の顔を覗き込んだ。


「何を言ってるんだ」

「私、家庭があるの。
他に好きな人ができたからって、そんなに簡単に壊せない」


自分に言い聞かせていた。


「…俺も君がそんな人だなんて思った事は一度もないさ」

「結婚ていろんなものが付いてくるのよ。家族とか、世間体とか…」

「………」

「それを壊す勇気もないくせに、私はあなたに逃げてる」

「家族が大切なんだね」

「あなたも家庭を持てばわかるわ」

「………」

「あなたならきっと幸せになれる」

「バカ言うなよ」


沙織は倉本から離れ、洗面所で化粧を始めた。


歪んだ顔にファンデーションを塗り、震える手で眉を描いた。 滲む涙のせいでよく見えなくなり、アイラインは諦めた。


「………」


泣かない


口紅を塗り、あとはチークをのせるだけが、あとからあとから溢れてくる涙が沙織の化粧の邪魔をする。


「うっ、うぅっ…」


俯いた肩が震える。


「君は、俺がいなくても平気なのか？」


倉本の声に、沙織は振り向いて叫んだ。