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秘密
第9章 露見
「行こうか」
「…はい」
化粧を終えコートを羽織ると、沙織は無理に笑って返事をした。
「外は寒いだろうね」
「えぇ、もう11月だもの」
ドアを開けるとすぐにエレベーターが見える。
もっと奥の部屋なら、もっと一緒に歩けたのに
残念に思いながら沙織は倉本の腕をとり、ぴったりと寄り添った。
次の約束はしなかった。
話があると言う慎一郎が明日何を言い出しても、沙織の気持ちはもうそこへは戻れそうもない。
たとえ咲子や母に罵倒されようとも、いずれはあの家を出よう。
そうは思っても、やはり夫を裏切り義母を裏切る自分の身勝手さに気持ちが暗くなっていった。
母は落胆し、美容師である義母の世間体は傷つき、更に体調を崩すのではないか。
それを知りながら全てを壊す覚悟が、らしくもない大それた事が私に出来るのだろうか。
沙織の足取りは重かった。
「あ、忘れ物」
「えっ?」
エレベーターのボタンを押した倉本が慌てて身を翻した。
「君の指輪」
「あ…」
「知ってるよ、テレビの側だろ、すぐに取ってくるから待ってて」
「エレベーターが来ちゃうわ…あ、上に行くボタンを押してる…」
「あはは、間違えた、丁度いいや、とにかく取ってくる」
「待って私も…」
「いいよそこにいて。俺の方が早い」
「…はい」
化粧を終えコートを羽織ると、沙織は無理に笑って返事をした。
「外は寒いだろうね」
「えぇ、もう11月だもの」
ドアを開けるとすぐにエレベーターが見える。
もっと奥の部屋なら、もっと一緒に歩けたのに
残念に思いながら沙織は倉本の腕をとり、ぴったりと寄り添った。
次の約束はしなかった。
話があると言う慎一郎が明日何を言い出しても、沙織の気持ちはもうそこへは戻れそうもない。
たとえ咲子や母に罵倒されようとも、いずれはあの家を出よう。
そうは思っても、やはり夫を裏切り義母を裏切る自分の身勝手さに気持ちが暗くなっていった。
母は落胆し、美容師である義母の世間体は傷つき、更に体調を崩すのではないか。
それを知りながら全てを壊す覚悟が、らしくもない大それた事が私に出来るのだろうか。
沙織の足取りは重かった。
「あ、忘れ物」
「えっ?」
エレベーターのボタンを押した倉本が慌てて身を翻した。
「君の指輪」
「あ…」
「知ってるよ、テレビの側だろ、すぐに取ってくるから待ってて」
「エレベーターが来ちゃうわ…あ、上に行くボタンを押してる…」
「あはは、間違えた、丁度いいや、とにかく取ってくる」
「待って私も…」
「いいよそこにいて。俺の方が早い」