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秘密
第9章 露見
唇の周りまでだらしなく赤く染まっているのは、今の今まで女と貪り合っていたからだ。


「………」


既に顔面蒼白で唇を震わせているのは、先に妻に気付いて動けないのだろう。



…ガタッ…ゴン…ガタッ…



時間は止まっているのに、ドアは開閉し続けていた。


健さん、来ないで

来ないで…


沙織は慎一郎を見つめながらそれだけを願った。

沙織の手足は冷たくなり、全身が心臓になったように鼓動が痛い。

首をゆっくりと左右に振り、アワアワと唇を震わせる夫は情けなく、それに比べて妻はまだ冷静さを保っていた。


女を罵る私を叩いてまで黙らせた夫の愛しい相手を確かめるまで…

妻のいる男の肌に、紅色の印を幾つも付けた図々しい女を確かめるまで…


沙織は震えながら前に進み、うるさく開閉するドアに手を掛けて横に押し開いた。


「や、やめ…ろ…」


慎一郎が呻いた。


「───…っ!…」



「ごめんごめん、床に落っこちてたよ…。
沙織…、どうした、何してるんだ?」


沙織は振り向かなかった。

黙ったまま両手を開きドアを押さえていた。


「沙織…」


倉本が沙織の後ろから中を覗く。


「…っ…に、西村さん…」


慎一郎は倉本には見向きもせず、引きつった顔で沙織を見ていた。

倉本が沙織の視線の先に眼を向ける。


「……おばさん?」


沙織の口が動いた。





「お、お義母、さん…」





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