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秘密
第9章 露見
「沙織…」

「………」

「沙織…」


ペタンと座り込み、放心して動かない沙織の口元と手をハンカチで丁寧に拭う。


「立てる?
部屋に戻って休もうか?」


沙織は大きく首を振った。


「こ、ここはイヤ。
…いつも、いつもここを使ってたんだわ…
ヒクッ…か、帰りに、花を買って」

「沙織?」

「ここの帰りに二人で花を買って庭に…
ウグッ…あの家の庭に…うゥッ…ウグッ…」

「わかった、ここから出よう。おぶってやるからほら、…階段から行こう。沙織…ほらおいで。
今は何も考えるな…」


「ウグッ…うん、ウクッ…」


倉本はその広い背中に沙織をおぶって階段を下り始めた。


「うぅっ、邪魔されてた、旅行も、…邪魔されて…」


首にしがみつき、しゃくり上げて震える沙織を、絶対に落とさない、離さないと思いながら倉本は歩いた。


「病気なんかじゃない。ふ、二人で、い、家で…ウグッ…」


黙ったまま一歩一歩を踏み締める。


明るい陽射しを浴び、四季折々の花を咲かせ、洗濯物が眩しく揺れる家の中には、2頭の陰獣が蠢いていた。


「帰さないで…、帰りたくない…うゥッ…帰りたくない…いや、帰らない…」


うわごとのようだった。


背中で聞く沙織の呻きが、嗚咽から慟哭に変わっていった。

倉本は震える怒りを堪えてそれを受け止め、唇を噛み締めて、二度と泣かさない、二度と泣かさない、と心で叫び続けた。





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