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秘密
第9章 露見
夕暮れが迫っていた。

明日の晴天を約束するかのように、冷たく澄んだ空には星が瞬き、街の灯がともり始める。

駆け足で訪れた冬の冷たい風が、ぽっかりと穴の空いた躰の真ん中をヒューヒューと通り抜けていく。

内側から硬く凍り始めていく躰を温め続けているのは、一時も離れない手の温もりだった。


「あの店を右に曲がるの?」

「ぅん…」


コクンと頷くだけの沙織は、寂れた雑貨屋の角を曲がると急に胸を張り深呼吸を繰り返した。


「家の前で失礼するよ」


沙織はまた無言で頷く。

古い民家が建ち並ぶ路地を行けば、どこからかカレーの匂いが漂ってくる。

繋いだ手にぐっと力が入り、沙織が足を止めた。


「ここ?」

「そう」


小さな門の向こうの二階建ての家には、まだ洗濯物が干されていた。


「じゃあ、俺はこれで」

「………」

「大丈夫?」


手を離そうとしない沙織を心配そうに見つめ、倉本はその冷たい頬に手を当てた。


「あれ?…沙織?」


ハッとして振り向いた二人は同時に距離を置いた。


「お母さん…」




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