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秘密
第9章 露見
「お母さん、後はお風呂が沸くのを待つだけよ」


倉本は沙織がテーブルに戻るのを待って、席を立った。

玄関先で奈美子に礼を言って外に出ると、門の所まで沙織が見送りに来た。


「健さん、お母さんに何か話した?」


心配そうに沙織が聞いた。


「何も話せないよ。
自分の事さえ上手く話せなかった」

「よかった。ありがとう」

「指輪がない事、聞かれると思うよ」

「そう…」

「大丈夫?」

「えぇ平気、大丈夫」


きっぱりと言い切った。


「お母さんは君をとても愛してるんだね」

「えぇ、そうなの」


僅かな笑みを浮かべ沙織が頷く。


「沙織、今日は…とんでもない事に…」

「えぇ、でも…、今日がなかったら私、一生不幸だった…」


沙織の口が歪んだ。


「次にここへ来る時は、ちゃんとご挨拶させて貰うつもりだから」


髪から頬に降りてくる手のひらに頬擦りをして、沙織は小さく頷いた。


じゃあね、と言って歩き出す倉本の背中は、いつでも自分をおぶってくれそうだった。

薄暗い外灯の光を受けて何度も振り返るその姿に「ありがとう、健さん」と小さく声を掛ける。


あなたに会っていなければ、何も知らずに今もあの家にいた

今日までの、惨めで無意味な3年半…


沙織はまた吐き気をもよおしながら、虚構でしかなかった結婚生活の終結を決めた。





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