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秘密
第10章 秋の日に…
秋とは名ばかりの暖かな光を浴び、なだらかな坂道をゆっくりと下って駅に向かえば、馴染みの八百屋の前で「こんにちは、お出かけですか」と店主から声が掛かる。


「こんにちは、えぇ、母が首を長くして待っているんです」

「あはは、そりゃそうだろうねぇ、可愛い盛りだ、いってらっしゃい」

「いってきます」

「バイバイ理沙ちゃん」

「ばいばーい」


小さな手を振り笑顔を振りまいていた理沙は、駅前の電話ボックスの横に立って腕時計を気にしている男を見つけると、それまでの事はすっかり頭から消えてしまった。



「パパだ。
ママ、パパだよ、パパー!」

「あ、待って、そんなに急いだら転んじゃうわ」


理沙は母親の手を引っ張って今にも走り出しそうに先を急ぐ。


「あ、パパ来た。
パパーっ」


ぴょんぴょんと跳び跳ねて父親に手を振る。

同じように手を振って足早に近寄ってくる男を、この世で一番愛していると言わんばかりの笑顔で迎えた。


「理沙、ちゃんとここまで歩いて来られたか?」

「うん、パパ抱っこ」

「よし、駅まで抱っこだ」

「わーい」




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