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秘密
第10章 秋の日に…
両脇に手が伸びて理沙はひょいと持ち上げられ、笑顔の父親と額をくっつけ合う。


「えへへ」

「まったく、甘いパパだわ」


娘の捲れたスカートを整えてやりながら、沙織は笑顔で倉本を睨んだ。


「お帰りなさい」

「ただいま」

「出張から戻ったばかりで疲れてない?」

「愛する娘を抱く元気は残ってるよ」

「あら、私の事は?」

「その分は夜の為に取ってある」

「良かった、ふふっ」

「ヨルノタメってなあに?」

「ん?
ん~、大人の食べ物だ」

「理沙も食べたい~」

「あはは、理沙には早すぎる。さあ、ばぁばが待ってるぞ、行こうか」

「うん」


小さな旅行カバンを片手に娘を抱いて歩く夫を見つめていると、父親との記憶が蘇ってくる。


愛されていた記憶。

父の肩車が怖くて、言い出せずに我慢していた逞しい肩の上。





土曜日の昼下がり、沙織は今改めて愛する家族と共にいる幸せを噛み締めていた。


倉本と二人、不器用に愛と信頼を積み重ねてきた。

悪夢にうなされる夜も、苛立ちをぶつける食卓でも、倉本は粘り強く沙織を受け入れ、慰めた。

少しずつ傷は癒えていき、その証のように理沙を授かった。




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