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秘密
第2章 誘い
歩道に面したガラスの向こう側に、駅の階段を上って行く純子が見える。
沙織は週刊誌を読みながらそれを見つめ、心配事が1つ解決した事にほっとしていた。
壁に掛かっている四角い時計は、5時40分を示している。
好きな女性作家の文庫本を探してみようと思い付き、週刊誌を元の場所に戻そうとした時、ガラスの向こう側の人影が目に入った。
「…っ…」
倉本だ。
──やぁ
沙織と目が会うのを待っていたその顔が、小さく頷いて僅かに唇を動かした。
倉本の指が店の入口を指し示し、また頷いて歩き出す。
慌てて週刊誌を元に戻しドアへと向かう沙織の目の前に、スーツの上着を無造作に握り、ハンカチで首筋の汗を拭う男が近付いて来た。
「暑いね」
「どうしてここに…」
「行こう、あと1時間半だ」
「あ…」
ハンカチをポケットにしまい込んだ手が、沙織の腕を掴んだ。
引かれるままに急ぎ足で外に出ると、湿った風が肌に巻き付いてきた。
「あ、あの。倉本さん」
「あ、ごめん。
先を歩くからついてきて」
慌てて手を離した倉本は、沙織に背を向けて歩き出した。
腕を掴まれた感覚が消えない。
沙織は週刊誌を読みながらそれを見つめ、心配事が1つ解決した事にほっとしていた。
壁に掛かっている四角い時計は、5時40分を示している。
好きな女性作家の文庫本を探してみようと思い付き、週刊誌を元の場所に戻そうとした時、ガラスの向こう側の人影が目に入った。
「…っ…」
倉本だ。
──やぁ
沙織と目が会うのを待っていたその顔が、小さく頷いて僅かに唇を動かした。
倉本の指が店の入口を指し示し、また頷いて歩き出す。
慌てて週刊誌を元に戻しドアへと向かう沙織の目の前に、スーツの上着を無造作に握り、ハンカチで首筋の汗を拭う男が近付いて来た。
「暑いね」
「どうしてここに…」
「行こう、あと1時間半だ」
「あ…」
ハンカチをポケットにしまい込んだ手が、沙織の腕を掴んだ。
引かれるままに急ぎ足で外に出ると、湿った風が肌に巻き付いてきた。
「あ、あの。倉本さん」
「あ、ごめん。
先を歩くからついてきて」
慌てて手を離した倉本は、沙織に背を向けて歩き出した。
腕を掴まれた感覚が消えない。