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秘密
第2章 誘い
沙織は思い出した。

倉本の言動に振り回されそうになるのが怖くて仕方がなかったあの頃を。


もう既に巻き込まれている


「ここはわりと静かだし、ゆっくり話ができる」


倉本はそう言って黒いガラスのドアを引き、中に入るようにと促した。

足を踏み入れた店内はすでに夜の装いで、ひんやりとした空間が熱気で火照った躰を冷ましてくれる。

ウェイターに案内されながら店内を見渡すと、カウンターに2人とドア近くのテーブル席に2人客がいるだけで、それぞれが降り注ぐスポットライトを避けるようにしてジャズに耳を傾けている。

テーブルを幾つか通り過ぎた二人は奥の小さなボックス席に通された。

落ち着いた雰囲気がかえって沙織を緊張させる。


「座ろうよ」

「あ…、えぇ」


向かい合わせに腰掛け、倉本が生ビールを、沙織はウーロン茶を頼んだ。

倉本はネクタイを緩めながら所在なげな沙織を見つめ、Yシャツの袖を捲りながら尚も沙織を見つめ続ける。

微笑むでもなく、物言いたげでもないその瞳には確かな熱が感じられ、沙織は不安を隠せなくなり、両手を握り締めてうつ向いてしまった。


「ありがとう」

「えっ?」


沙織が顔を上げた。




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