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秘密
第2章 誘い
「…ッ…」


倉本の瞳には挑戦的な色が滲み、冷静を装いながらも沙織の視線を捉えて離さない強さがあった。

瞳を見つめられているだけの筈が、心まで見透かされているような不安が押し寄せ、沙織は思わず息を飲んだ。


「余裕ある?」


えっ?


倉本が沙織の髪に手を伸ばす。


「人妻という立場になった余裕…」

「…っ…」


後ろへ引こうとする沙織の後頭部に倉本の手が当てられ、立ち上がりながら更に顔を近付けてくる。


「や、やめて…私帰る」

「…だめ」

「せ、洗濯物を取り込まなきゃ…」


倉本が意地悪そうにフッと笑った。


「たしかお義母さんと同居だって聞いたよ」


視線が近い。
息がかかる。


「で、でも義母は今日、帰りが遅いの…」

「じゃあ今君を待っている人はいないね」

「…っ…」


ずっと眼を開けていた。

倉本の視線が唇に下り、ゆっくりと瞼を上げて沙織の眼を見る。


「………」


顔を斜めに傾けながら、落ち着き払った優しい眼差しが探るように唇に戻っていく。

長い睫毛の隙間から、ゾクゾクするような怪しい色が沙織を誘っていた。




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