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秘密
第3章 渦巻く疑念
『おはよう
今日も暑いね』


『雨だね』


あれから2週間、沙織は毎朝来る倉本からの短いメールを家を出てから確認し、一切返事を返さなかった。

職場に来るのではないかと気になっていたが、倉本は約束を守り続け、沙織はなぜか待ち続けた。

メールが来ない日は気になって仕方ない。


『今朝は寝坊しました。焦ったー (笑)』


沙織は慎一郎との旅行が終わったら、もう連絡しないで欲しいとだけ伝えるつもりでいた。

今すぐ断るべきだとわかってはいても、倉本の一言に気持ちは華やいで昂り、甘いときめきから抜け出せない。

沙織は無視を決め込む事で、自分を許した。


不倫なんかじゃない


でも恋をしていた。
切なかった。


慎一郎との旅行の日が近付くにつれ、言い様のない寂しさが胸を埋めつくし、携帯を握り締めては胸に押し付けた。


「く、ら、も、と、た、け、る」


小さく呟いてはため息をつく。


あの夜がなかったら、夫を誘ったりはしなかっただろう

きっと忘れられる
忘れさせて欲しい


それは賭けだった。

走り出したくなる心と躰を繋ぎ止めて欲しい。

沙織の躰はあれからずっと、熱く火照り続けていた。




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