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秘密
第3章 渦巻く疑念
広告代理店という仕事の事など何一つ知らない沙織は、相崎の他数名の名前を聞いた事があるだけで、会った事も話した事もない。

日頃の夫を見るにつけて、とにかくいつも忙しい仕事なんだと感じるばかりだった。



「あの中でお茶しない?」

「そうしよう、喉がかわいたね」


歴史的建造物として名高い重厚なレンガ造りの倉庫はとうにその役目を終え、今や様々なショップやフードコートを抱え込む商業施設へと変貌を遂げている。

二人はその趣きのある建物の外観と、今もあちこちに昔の面影をとどめている内部を感慨深げに見て回り、薫りにつられて入ったコーヒーショップで、向かい合って座った。


「明日は美術館に行ってみない?」

「そうだね」

「遊園地は?」

「いいよ」

「観覧車に乗りたいの」

「そうしよう」

「きっと素敵な景色が楽しめるわ」

「うん」

「お義母さんにお土産も買わなくちゃ」

「あぁ」


沙織は楽しげにはしゃぎ、慎一郎は微笑んで返事をする。

今日は沙織には大切な日だ。夫にもそうであってほしい。


仕事が気になるのか、どこか冷めた色が混ざっている夫の瞳には気付かぬ振りをして、沙織はがらにもなく一生懸命に夫の気持ちを盛り上げようとしていた。




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