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秘密
第3章 渦巻く疑念
「ふっ…、笑える…」


父親が病で死んだ時には母の胸で思いきり泣いた

遠藤に汚された時には大声で1人で泣いた

今は、二人でいるのにその人の前で泣けない…



沙織は床に座り込み、便座を両手で掴みながら嗚咽を堪えた。

堪えきれない時には水を流し、便器から跳ねた滴が顔にあたった。

トイレットペーパーで鼻をかみ、涙を拭い、便座に突っ伏しながら口を覆う。


「うっ、うぅっ…」


──ちゃんと愛されてる?


倉本の声が響く。



疲れているだけ

早く眠りたかっただけ

いつもと違う私にびっくりしただけ


こじつけた理由で夫の罪を軽く済ませてあげようと試しても、心の痛みと惨めさが重くのし掛かってくる。

泣き疲れ、ドアにもたれた。瞼が重い。

ふらふらと立ち上がり、洗面所でタオルを絞って目を冷した。

夜明けを待たずに期限が切れた。



寝ている夫に背を向け、ベッドに座って携帯を開いた。

迷いに迷って文字を打つ。


『いつ会えますか?』


真夜中だった。


『今すぐにでも』


すぐに返ってきた6文字の言葉に、沙織は堕ちていきそうだった。





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