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秘密
第3章 渦巻く疑念
「沙織…」


夫の声に起こされ、いつの間にか寝ていた事に気がついた。


「まだ早いから起きなくていいよ」

「おはよう。
今何時?」


頭が重い。


「5時半だよ。急げば遅刻しなくてすむかもしれないからそろそろ行くよ。支払いは済ませてきたからね」

「ん…いってらっしゃい。気をつけてね」


起き上がれない。


「気をつけて帰るんだよ」

「平気よ。……あなた」

「ん」

「どこに行くの?」

「えっ?」


沙織は右手を伸ばした。


「会社だよ。
なんだ寝ぼけてるのか?」


慎一郎は笑いながら沙織の手を握り、握手をするように2、3度振った。


「いってらっしゃい」

「あぁ、今日は早く帰れると思うよ」

「そう」


もう遅い…
もう企画は立てられない


「一眠りするといいよ。おやすみ」

「いってらっしゃい」


慎一郎はカバンを持ち上げると、沙織を振り返る事なく部屋を後にした。


酷い顔をしている筈だ

瞼が重く、顔が腫れぼったい


沙織は夫の寝ていたベッドに目をやり、そしてまた眠りに落ちた。


もう泣かなかった。
疲れてしまっていた。




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