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秘密
第3章 渦巻く疑念
小さなキャリーケースを引き摺りながら、沙織はひとり観覧車に乗り込んだ。

ゆっくりと昇っていく箱の中で携帯を取り出し、今朝届いていたメールを見直した。


『眠れなかったよ』


倉本の言葉には嘘がなかった。

会社に行くと言う夫の言葉にさえ嘘を見つけたくなるのに。


『ごめんなさい』


低く沈んでいく景色の中に、近代的なビルと古い建物が混在し、人々はその狭間で未来に向かって蠢いている。

海に目を向けると昨日見た巨大な客船が、白い足跡を伸ばしながら橋の下を通過していた。


──いつか私達も…


あれに乗って旅がしたいわね


夫は笑顔で「そうだね」と言うだろう


沙織はため息をつきながら、1人では広すぎる空間から徐々に近くなる下界を眺めた。


現実が待っている

重い足取りで帰れば義母を心配させてしまう

早く気持ちを切り替えたい







ゴロゴロと音を立てて歩き赤信号で立ち止まる。

一瞬車の流れが途絶えた交差点に、陽炎が揺らめいていた。

沙織は足元から上がってくる熱気にうんざりしながら横断歩道を渡る。


憂鬱はこの街に捨てて行きたい





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