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秘密
第4章 乱されて
指が震える。


『どこへ行けばいいですか?』


沙織はそう返信してから振り向いた。

女性の小さな後ろ姿が遠ざかっていく。


地獄花…

地獄の入口に咲いているのだろうか

私はそこに、足を踏み入れるのだろうか



沙織は駅に向かって歩きだした。

震える指先を握り締め、前だけを見つめた。

頬にあたる風は優しく、微かに秋を匂わせる。


いつも寂しかった

掴めないものに手を伸ばし続けていた



『どういう事なのかわかってるよね』


駅のホームで倉本からのメールを受け取る。

沙織は画面を見つめ、深く息を吸い込んでから指先を動かした。


『わかっています』


送信した瞬間から夫が遠ざかる。

夫への疑念も失望も忘れ去ったかのように、倉本の存在が沙織の心を占領していた。


『逃がさないよ』


頬に赤みが差し、瞳が潤んだ。背筋を伸ばし胸を張り、真っ直ぐに前を見つめてしっかりと立った。


こんな私でも、愛してくれる人がいるんです


切なくて叫びたい程だった。

コトコトと速くなる胸の高鳴りを誰かに伝えたい。


「─…っ…」


それは少女の恋とは違う、孤独で淫靡な秘密の始まりだった。





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