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秘密
第1章 静寂の夜
あの時の遠藤と尾田の顔。

貼り付いたように動かない間の抜けた表情が、今も沙織の頭から離れない。

悲鳴と言葉を一緒に吐き出す前の哀れな表情。

一瞬が永遠のように心にとどまり、息を吹き返せば、醜く歪んで動き出す。







──いやらしい躰…


沙織は大学へ進学してからもその言葉に苦しめられた。

明るくても控え目だった沙織は、当然のように人目を気にするようになり、躰の線が出ない洋服ばかりを選んだ。
近寄ってくる男逹とは距離をおき、まるでケダモノであるかのように恐れていた。



就職して社会と関わるに連れ徐々に心がほぐれてはきたが、相変わらず男と深く関わるのは苦手だった。


27才を迎えようとしていたある日、これまで少しも男の気配がない内気な娘を気に掛けていた母親が、知り合いの息子を強くすすめてきた。


「一度だけでいいんだから」


母親に急かされて仕方無く会ってみたのが慎一郎だった。

沙織はその笑顔と自然な優しさに触れ、これまでになく気持ちが和らいでいく。

その後、緊張しながらの付き合いの中でも、慎一郎は礼儀正しく、温かかった。

沙織は自分が大切にされているのだと信じる事ができた。



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