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秘密
第5章 仮面の下
駅へと歩く道の途中で携帯を開いた。


『今起きた。
君は出勤途中かな。
次はいつ会える?
近いうちにまた、出張を早めに切り上げて君と抱き合いたい』


倉本の言葉はすぐに沙織の胸をときめかせる。


『真面目にお仕事してください』


沙織は落ち着き払ったふりをした。


『俺の真面目さはよく知っているだろう?
いつだって真面目さ、もちろん君にも』


携帯を胸に押し当てる。

高まる気持ちを押さえようにも、嬉しさに頬が染まる。

慎一郎に抱いた事のない感情に心が弾み、自分を強く欲してくれる倉本に惹かれる気持ちを抑えきれない。


すぐに逢いたい
今夜にでも

熱い視線で見つめて欲しい


そう思いつつ、立ち止まり唇を咬んだ。


今日は夫が家で待っている

夜は久しぶりに家族揃って平和な食卓を囲むのだろう


『私も真面目な主婦なんです』


自分に言い聞かせるように送信ボタンを押した。

駅の改札を通ったところで携帯が震えた。


『そうだね。
そうだった、ごめん』


「………」


咲いたばかりの花が、雨に打たれてすぐに散っていくような虚しさを噛み締め、沙織は目の前を通過していく急行を見送っていた。





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