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桜宴香~おうえんか~
第1章 桜宴香
全身の血が沸騰するみたいだった。
「あ、あのっ!すみません」
足早に彼女を追い越すと前に回って声をかける。
心臓が壊れそうなほどバクバク言っているのが自分でもわかる。
けれども俺の顔を見た彼女はギクリと身体を強ばらせて俯いてしまった。
「あの、昨日の花見で……」
声をかけたものの昨日のアレを何と言えばいいんだろうか。
言いよどんでいた俺の脇をすり抜けて彼女は逃げるように走り去る。
なすすべもなく呆然と立ち尽くす俺。
「っちょっと!由依?どこ行くのよ!」
彼女の友人らしい女性社員の声で我に返ると彼女の後ろ姿を追いかけた。
「ちょっと待って!」
俺の声を振り切るように後ろを振り返ることなく人の合間を縫って小走りに走っていってしまう。
見失うか……?
辛うじて扉の向こうに消えた彼女の姿を確認できた。
そこは資料庫として使われている倉庫の扉。
ゆっくりと扉を開くと紙の匂いに混じって微かに彼女の香りがするような気がする。
「……さくら?」
呼びかけてみたけど反応はない。
電気をつけて中を覗いてみたけど、ちょっと見た程度では彼女の姿は発見できなかった。