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桜宴香~おうえんか~
第1章 桜宴香
と、そのとき
「っくしゅ!」
奥の方から小さなクシャミが聞こえた。
そちらのほうに進んでいくと、物陰に小さく身を縮こまらせている人影がある。
「あの……人違いだったらすみません。開発企画課の杉浦です。一昨日の夜、会社の花見のときに俺に会いませんでしたか?」
恐る恐る声をかけると小さく顔を上げた彼女は
「ひ、ひとちがいだと……思います。私、花見には参加してません」
高く優しい声は彼女そのもの。
「じゃあ確認させてもらっていいですか?」
間合いを詰めて彼女の前に立つとじっと彼女の顔を見つめた。
やっぱり間違いない。
「人違いだとしてもお礼を言いたくて。ありがとうございます。あなたのお陰で元気になれたから」
にっこりと微笑みかけると、彼女は俺の顔を凝視したまま呆けている。
「本当にありがとう」
彼女の手を握り、頭を下げると
「ご、めんなさい」
黒い瞳に涙が溢れていった。
「人違いじゃないです……」
「じゃあ、君が“さくら”なんだよね?」
コクリと頷いた彼女にそっと唇を落とした。