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大地の恋
第2章 若葉の頃
その日の千花ちゃんは分かりやすいほど仕事に張り切っていて、俺は何度隠れて笑ったことだろう。


翌日、約束通り彼女に昼飯を奢る。
社食だというのに千花ちゃんは嫌な顔をするでもなく、嬉しそうに話し美味そうに食べ、楽しそうによく笑った。


そんな時間に癒されたのだろうか。
それからも俺は彼女を度々昼飯に誘うようになる。

先輩には「付き合ってるのか?」とからかわれたりもしたが俺たちはそんなんじゃなくて…


ーーーーでももしかしたらその頃の俺は千花ちゃんに真優を重ねていたのかもしれない。



そんなある日、廊下を歩いていると人影を見つける。



「週末もダメ?」


……林だ。



「ごめんなさい、週末は予定があって」


その相手は千花ちゃんで。


「じゃあケー番教えてよ」


「社用メールがあるじゃないですか」


「俺どうしてもお礼がしたいんだけど」



……この間の飲み会で介抱されてほだされたか。


林の誘いに千花ちゃんは頷かないが、林も林で引かない。


「…チカちゃんてさ、板橋さんが好きなの?」


「……どうしてですか?」


「よく昼一緒に食ってるから」


「………」


「やめとけよ板橋さんは」


林は千花ちゃんを漫画かドラマのように壁に追い詰める。


「あの人すげー遊んでるってさ」


「そんなことないですよ」


「だって昔板橋さんと一緒に働いてた人が言ってたぜ?板橋さんに泣かされた子が何人もいたって」


「………」



「チカちゃんみたいな子にまで手を出すなんて板橋さん鬼畜だよな。遊びならもっと他にいるだろうに」



林は笑いながら話しているがその目は笑っていない。
随分思い詰めたのだろうか。



「…板橋さんはそんな人じゃないです」


「チカちゃんさ、板橋さんの何知ってるワケ?」


「知らないです…知らないですけど板橋さんはそんな人じゃないです」



千花ちゃんはその言葉を繰り返す。
あまりの説得力のなさに俺でさえ呆れるけど、その声のまっ直ぐさから千花ちゃんの中の俺は本当に「そんな人」じゃないのだろう。


それだけがよく分かった。







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