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第8章 【紫陽花色の雨】
*****

「いいのか。話し合わなくても」

車に乗り込み、騒ぐ胸を落ち着かせようとする。
爽介に尋ねられる度に頷く。
納得しかねるのか、爽介は執拗だった。
せっかくようやく胃袋に収めた食べ物が逆流してきてしまいそうだった。
呑みたかった。

『爽介、もう1軒行こう』

爽介が腕時計で時間を確認したことに、気付いていた。
帰りたくなかった。

「酒は止めとけって言っただろ」

爽介が溜め息をつく。
帰りたくない。
帰りたくない。

「‥そんな、“ひとりではいられない”みたいな顔すんなよ。
気を許してくれるのは結構だけど俺はお前を口説いている最中なワケ。
弱っているお前に漬け込みに来たんだぞ。
隙を見せんな」

『……………』

帰りたくなかった。
ひとりになりたくなかった。
狡いとは知りつつも、爽介の太股に手を置いた。
爽介が握り潰すような強い力で私の手を掴む。

「‥俺の部屋に来る?悪いケド、俺は添い寝なんて生温い真似はしない。
漬け込まれに来るんだったら必ず抱く。
《昨夜の質問》に答えてやる。
心配しなくてもお前には女としての魅力があるよ。
少なくとも俺は801穴よりお前の穴に突っ込みたい」

*****

『部屋なんて借りてたんだね。実家かと思ってた』

爽介に連れて来られたのはマンスリーマンション。

「ウチはさ、孝介が跡取りなワケ。俺が帰っても居場所なんかない。俺が好き勝手してるせいでアイツに我慢させてるし。
こっちにいる間は借りておくつもりだ」

『やっぱり仲良いね。何だかんだ言って弟思い』

爽介は昔から孝介と真央を可愛がっていた。

「孝介には何でもしてやりたい。お前をくれてやる以外は」

『……………』
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