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第8章 【紫陽花色の雨】
*****

淫らな夢だった。
目覚めると、裸で横たわっていた。
タオルケットは掛けられていたが、脱いだ衣服も見当たらない。
呑んでそのまま裸で眠ったのだろうか‥。

なぜか布団の中や畳の上に砂のようなものが散らばっていた。
【眠りの妖精】は眠りの砂を枕元に振り撒くというお伽噺がある。
淫夢は眠りの砂の作用かも知れなかった。

夢の中の人影を思い出す。
肌の質感、濡れた唇を―

通勤の前だというのに、久々に自慰行為をした。
足の指が小刻みに震え絶頂を迎えても、暫くそのまま指を抜かずにいた。
夢の名残を手離したくなかった。

*****

17時で就業し、爽介の部屋に直行した。
一晩しか離れていないのに、爽介は寂しかった寂しかったと車の中で甘えて離れなかった。
普段感情の読めない男が時折見せる寂しがり屋の一面は、私を密かに欲情させる。

洋服を脱がせ合い、ふたりでシャワーを浴びた。
濡れた身体をろくに拭いもせず淫らな遊びに耽った。
爽介の一部を手のひらで鎮め、今度は爽介が跪きベッドに腰掛けた私の秘処に顔を埋めた。
その時、携帯が鳴った。

「出ろよ」

嫌だと言う前に爽介が通話ボタンを押していた。
爽介は遊びを続行させた。
快感に身をよじりながら声を殺し、通話する。
“飯を食おうよ”と、孝介からのお誘い。
爽介が黙って頷いたので約束を交わす。

「アイツ気付いたかな」

爽介が肩を揺らして笑う。
そのまま指でイカされた。挿入は無かった。

*****

「みーちゃん久しぶり!パンツ何色‥ってなんでお兄ちゃんがいるの……」

隠れ家風の居酒屋の個室で相変わらず隙のないスーツ姿の孝介が待っていた。

「いっしょにいたから。因みにみちるのパンツはらくだ色だ」

ふかふかのソファーを陣取り、爽介が笑う。
今日はオレンジ色のTシャツにチノパン。
伊達眼鏡は豹柄デザイン。
揃うとやっぱり孝介の方が兄に見える。
‥そういう私はTシャツにジーンズのしみったれ。

ソファーの前の座布団に私は座り、テーブルを挟んで孝介が座る。

「何、今日は3P?
爽ちゃんは呼んでないよ!」

「3Pなんて生易しいもんじゃないぞ孝介。覚悟しとけよ?みちるはなぁ…」

『爽介!』

多国籍料理のコースと飲み物が運ばれてくる。

「マジかよ……爽ちゃんだけでも相当手強いのに……」
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