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第8章 【紫陽花色の雨】
*****

“すぐ行く。待ってろ”という爽介の言葉で電話を切り、アパートのブロック塀の前に立つ。
隣室で葵と彼女が過ごしていると思うと目の前が暗くなり、部屋には入りたくなかった。

言葉通り、爽介はすぐにやって来た。
孝介もいっしょに、タクシーに乗って。

『どうしてタクシーなの‥?』

「スーパーも閉まってるし、停めるトコがねぇから」

『なんで停める必要があるの‥?早く連れていってよ…』

―ここにはもういたくない。

「‥ハァ。俺はなぁ出来るコトなら知らねぇふりしてたかったんだよ。お前を手に入れられるなら。
でも、こうなったら仕方ねぇ。
いいか、みちる。その寝ぼけ眼をかっ開いてよく見とけよ。
今から俺がこの騒動のタネ明かしをしてやる」

*****

タネ明かし―?
それは何のことかといぶかしく思う間もなく爽介に腕を掴まれ隣室のドアの前に連れていかれた。

「なになに?!何事?!」

事情を知らずに連れて来られた孝介が慌ててついてくる。

『そ‥爽介!止めて!!何するの!!』

「あれ‥?この部屋って…爽ちゃん…???」

「おい!いるのはわかってんだぞ!!
早く開けろ!!」

インタホーンを連打し、ドアを叩きまくる爽介。
ドアは開く気配がなく、何やら部屋の中から言い争う声が聞こえる。

「さっさとしろ!死にてぇのか?!
首を絞めながらメッタ刺しにされるのと、メッタ刺しにされながら首を絞められるのどっちが好みだ!!
もれなく灯油をぶっかけて放火、跡形もなく消してやる!!!」

鬼畜節が炸裂する爽介。

『や‥止めてよ。ご近所迷惑だし、もう葵のことはいいから…』

「良くねぇよ!ちゃんと肥やしと話し合えって俺は言っただろうが!!
お前はガキの頃からまったく成長してねぇ。訊きたいことがあるなら直接訊け!
言いたいことは直接言え!疑心暗鬼に囚われずにちゃんと目の前の相手を見ろよ!!!」

ドアが静かに開いた。

「‥何?うるさい…」

不機嫌そうな葵の声。
爽介がすかさずドアの隙間に脚を挟む。
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