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第8章 【紫陽花色の雨】
「‥ふぅん…」

『私が地中に埋もれていたこの5年間、葵はずっとそばにいてくれたでしょ?
私がどんなに駄目な時でもそばにいてくれた‥それが当たり前になっていてどんなに大事なことなのか忘れていたんだよね‥葵がそばにいてくれることがかけがえのないことだって』

「‥忘れちゃってたの?もう…みちるちゃんったら、わすれんぼうさん…」

葵が私の髪の毛を一掬い指先に絡め、私の耳にそっと掛ける。

「‥みちるちゃんが望む限りは、オレはそばにいてあげる。
みちるちゃんがオレの存在が必要だって言ってくれる限りは。
ねぇ、みちるちゃんはオレの存在が必要?」

『うん‥。私には葵の存在が必要。我が儘かも知れないけど、そばにいて欲しい』

「みちるちゃん‥オレは15歳の時からずっとあなたのそばにいるよ。
あの時、オレは確かにこどもだった。
あなたは、あの時も大人だった―でもね」

葵が私の額に額を寄せた。

「時間や距離の間隔っていつも一定じゃない。伸び縮みするよ。
‥15歳と24歳のオレたちの間には遠く隔たりがあったかも知れない。だけど、あれから5年流れた。
オレは年月の長さ分、変化したよ。
みちるちゃんもきっと変化した。昔と同じようにずっとそばにいるからといって、オレたちの距離が昔と同じままだとは限らない。
それぞれが変化した分きっと、何がしらの変化が生まれているはずだよ。
オレたちの関係は常に変化している。
だから‥“今までと変わらない関係でいたい”なんて、そんな哀しいコト言わないで。
今のオレたちを否定しないで。
過去のオレをひっくるめて今のオレを見てよ」

『うん……』

「“関係ない”なんて言わないで‥関係させてよ。助けて欲しい時は“助けて”って言って。
あなたが望まない限りはオレは何もしてあげられない」

葵の不思議な色の瞳を見つめて頷く。
額を寄せたまま、お互いの両手の指をきつく絡めた。
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