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第9章 【ウィークエンドはあなたと】
『‥見たかった。二十歳の爽介が跳ぶ姿を…』

ニュースや新聞で、はにかんだ表情を浮かべていた爽介。
今の葵や真央と同じ年齢の爽介―
食い入るように画面の中の、紙面の中の爽介を見つめた。
爽介が世間に認められて嬉しかった。誇らしかった。
―同時に、自分が手に入れられなかった存在を目の前に突き付けられ、あの頃の私は苦しみ悶えた。

『‥爽介は知らないだろうけど‥私、たぶん高校の時も爽介が好きだった。高校を卒業した後も好きだったかも知れない』

爽介の喉がひきつれたような音を出した。
抱き合っているからどんな表情をしているのかわからなかった。

「今は?みちる、俺のコト好き―?」

答えられない。
今度は私の喉からひきつれたような音が出た。

「今日は‥‥脚が痛ぇから…俺、怪我人だから…お願いきいてよ。
今日だけでいいから。
俺を好きだって言えよ‥嘘でもいいから。頼むから……」

爽介が私の肩に顔を埋める。雫で鎖骨が濡れた。

『爽介が…好き…だった』

爽介が嗚咽を洩らす。

「……過去系かよ。好きだって言えよ」

『言えない‥嘘になっちゃうから。
爽介は、私がどんなに爽介のことを好きだったか知らないから…
―あの頃が嘘になっちゃうから‥言えない』

「俺もお前も大馬鹿だ。一言で済むのにな‥俺はあの頃の俺に教えてやりたい。
たった一言、告げれば済むって。
たった一言、告げれば俺たちは……」

*****

夜の闇に怯えるこどものように、私たちはお互いの身体を絡め合って身を横たえた。
時折、爽介の手のひらが私の身体を撫でた。欲望を感じさせる触れ方ではなく、母親の温もりを求める赤ん坊のような触れ方だった。

「‥心が水だったら良いのにな。インクを垂らして、色水にすんだよ。そしたら相手が何を考えているか一発でわかる。
抱き締めていても相手が何を考えているかわかんねぇっつーのは寂しいもんだな‥。
大人になれば何かが変わるかと思ってた。
お前のコトがどうでもよくなるか、もっと上手にお前に向き合えるか。
でも俺は、自分自身にすら上手く向き合えない。…みちる。俺、寂しい。身体だけじゃなくてもっと深く繋がりたい。
お前の心が欲しい―」

*****
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