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第9章 【ウィークエンドはあなたと】
しくしく泣きながら葵に電話を掛ける。
もう1時。本来なら葵は眠っている時間だ。
すぐに1コールで出てくれた。

「―みちるちゃん?」

電話越しの声はいつもと違うような気がする。声が低いし、滑舌もはっきり聞こえる。

『もしもし‥葵ちゃんですか?
本物の葵ちゃんですか?甘納豆は好きですか?』

葵が苦笑している。

「‥そんなにぽこぽこ偽物がいたら困る。‥今、ドコ?ちゃんと服着てる?」

『部屋でね~ひとりで呑んでるの~葵ちゃんはどうしていないんだろう?
星に還っちゃったの?
身長何cm?服は脱いだ~』

楽しくなってケタケタ笑う。笑いながら泣く。

「‥風邪引くよ。
‥甘納豆は好き。身長は192cm。星には還れない。寂しがり屋がいるから…もうお酒はそのくらいにして、服を着て寝なさい」

葵の声が優しい。

『葵、胸が痛いの。
葵も胸が痛くて眠れない夜がある?
牛乳は好きですからぁ~?』

「‥あるよ。例えば今夜だとか。
牛乳は本当は好きじゃない。お腹を壊すから…」

『そういう時、葵はどうするの?
私はどうしたらいい?
牛乳嫌いなのに飲むのはどうしてぇ~?』

「‥どうもしない。
ひたすらに夜明けを待つ。朝が来れば、新しい1日が始まるから。
…牛乳は、早く大人になりたかったから。
身体が大きくなれば何かが変わるかと思って」

『どうしてここに葵はいないの?
何か変わった?大人にはなれましたかぁ~?』

暫くの間、葵が黙り込む。

「‥イイコだから寝なよ。眠っている間に朝が訪れるから。
どんなひとにもどんな夜でも、時間さえ流れれば平等に朝は訪れるんだから…ちゃんとみちるちゃんの部屋に帰るから。お土産買って帰るから。
帰ったらうんと遊んであげるから…」

葵の息づかいが聞こえる。小さなため息。

「‥あなたが他の誰かのために胸を痛めて泣いている内は、オレはまだこどもなんだろう。―きっと、これから何かが変わると信じてる」

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