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第9章 【ウィークエンドはあなたと】
「昔、散々辛い想いしただろ?苦しかっただろ?
だから自分から手離したんだろ‥?
どうしてみすみす苦しい恋をしなくちゃならない?
みーちゃん。爽ちゃんはね、昔のまんまだよ。根っからの女たらしなんだ。ちっとも変わっちゃいない。
また嫉妬に狂いたいの?
一度好きだと認めてしまえば、爽ちゃんへの気持ちがセーブ出来なくなる。みーちゃんは正直だから。
また同じことを繰り返すの?」

あやすように孝介の手のひらが背中をさする。
《孝介には気をつけろ》爽介の言葉が、胸を去来する。

『―爽介が‥孝ちゃんに気をつけろって言ってた。嘘をつくって』

孝介が背を屈めて、私の顔を覗き込んだ。
ゾッとするほど冷たい瞳をしていた。

「そうだよ。僕は嘘をつく。呼吸するみたいに、実に簡単に。
だけど嘘をつかない人間なんている?みーちゃんは?
今まで一度も嘘をつかずに生きてきた?」

―答えられなかった。

「ひとは皆、嘘をつく。例外は無いよ。爽介だってそう。
爽介だけは好きになるな。
‥好きになったら、みちるは絶対後悔する」

言い含めるように、諭すように孝介が言葉を紡ぐ。

『どうして…?』

「初恋は叶わない方がいい。
思い出は胸の奥にしまっておけよ。
みーちゃんは、お兄ちゃんを選んじゃいけない。
本気で爽ちゃんのことが好きになる前に、僕のところにおいで。
爽ちゃんがみーちゃんに隠している、爽ちゃんの裏側を教えてあげる。ただし―僕は人助けって好きじゃない。もちろん、見返りは求めるよ」

*****

―もしも既に好きになってしまっている場合はどうしたらいいの?

一昨日感じた爽介への気持ち。恋心の予感。
マイコへの嫉妬心。

いくつもの感情と不安が入り交じった。
立ちすくむ間、孝介が唇を重ねてきた。
その唇に何も感じなかった。
口内を犯そうとする舌先を呆然と受け入れた。
一瞬、孝介の身体が私から離れ、大きく傾いだ。
体重を掛けられ、孝介の身体ごと玄関の前の床に倒れ込んだ。
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